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サイエンスの勉強なら講演へ(放射線・粒子線治療を支える医学物理最前線2017)(068)

京都大学原子炉実験所の講演会に行ってきました。
いつものように、大阪府南部、熊取町での開催です。
 
ガン治療の3本柱(手術で切除、抗がん剤の投与、放射線治療)の3番目、
あまり一般に知られていない「放射線治療」のサイエンスの講演です。
 
講演の概要やスピーカーのプロフィールはホームページをご覧ください。
 
 
1)ガンに合わせて放射線の種類を選ぶ
陽子線、重粒子線、中性子線(これはBNCT)というのは
手術に使う「メス」の種類のようで、
よく切れるメスもあれば、小回りの利くメスもあります。
 
ガンの種類、箇所、臓器の種類に合わせて適切な治療方法を選択するというのは
通常のガン治療と同じ話なんですね。
 
 
また、ビームを打つには、そのガンが1カ所に止まってるのが大前提です。
なので胃、腸、管などのよく動く臓器には使えません。
また、血液のガン(や他の方法が良く効くガン)にも使えません。
 
 
2)小型化、低コスト化が緊急の課題
放射線治療(のうちX線以外)は、粒子を加速して幹部にぶつけるので、
一定以上のエネルギーを持った加速器が必要です。
大がかりな施設が必要なのがネックになっていて、
一番施設の大きな重粒子線(炭素イオンを利用)治療では、病院の建物の何倍もの大きさに。
 
話題のBNCTも、元々原子炉から出る中性子線の活用からはじまったくらいですから
原子炉の存在が前提です(最近は加速器でもOK)。
大学病院で原子炉が併設してるところ、そんなのないですよね。
 
 
3)学際分野ならではの面白さ
登壇されたお三方ともおっしゃってたのが、「人材不足」について。
陽子線の話をされていた先生は、宇宙物理学分野から転身(!)されたが
使う手法・考え方自体はあまり変わらないと。
 
医療分野には研究テーマがたくさん眠っているし、
すぐに業界のパイオニアになれるほど、未開拓の分野でもある。
物理などサイエンスの素養を持った人が増えていけば、
放射線治療の研究も進むし、研究者のキャリアにも面白いのではないか。
 
医療物理では実際に患者さんの役に立てるという
強烈な動機付けがあるので、基礎研究しかやってない身には大変うらやましくもありました。
 
 
4)雑感
メディアにのるガン治療方法といえば、
手術への批判(安易に切るな)とか化学療法の問題点(抗がん剤がきかない)が中心で
第三の柱「放射線治療」は聞いた覚えがありません。
(批判の前にそもそも理解というか認知されてないんじゃないかとも思います)
 
放射線治療の理解には、高校物理の電磁気・原子物理が前提となります。
こういう講演会を使って必要な知識を勉強すると、
安心して放射線治療に望めるのではないかな、と思いました。
 
 
熊取での講演会は、トピックに偏りはあります(主催が原子炉実験所なので仕方ない)が、
全くなじみのない分野を分かりやすく話す、という大変難しい作業をしていて
毎回「ほー」「うまいなー」と関心しております。満足度も非常に高いです。
 
今年の分は終わってしまいましたが、来年度以降は是非聞きに来てください。
 

 

放射性物質の正体 (PHPサイエンス・ワールド新書)

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テーマ的に一番近い?のと、著者さんが信用できるので選んだ1冊。

ブルーバックスみたいな一般向け科学入門書レーベルですので

パラパラ読み、拾い読みにぴったりだと思います。

 

本格的に勉強したいなら医療放射線技師用のテキストがありますし、

少し専門的にはなりますが、信用できる翻訳書もあります。 

放射化学

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残念ながら絶版ですがAmazonの古書でもすぐに手に入ります。

少し高いので、近くの大型図書館でお探しください。

 

うちの研究室にもなぜか置いてた(翻訳者との付き合いで買った????)ので、

索引だけ読んで遊んでましたっけ。